第十四章 若者たちと生きる活力
23 大集落
数年後。
最初に野球を始めた小さな集落は、巨大な町へ発展している。
球場を中心に店が並び、宿ができ、道が整備されている。
獣人が設計したスタジアムは、この世界で最も大きな建築物になった。
主人公は今でも試合の審判をしている。
ただし、今では審判を育成する仕組みもある。
獣人は球場の設計だけではなく、都市そのものの設計にも関わるようになっている。
野球を通じて生まれた人の流れを考え、道路を作り、宿を作り、商店を配置する。
二人が作ったものは、もう野球だけではない。
24 若者たち
ある夕暮れ。
二人は球場の観客席に座っている。
グラウンドでは若者たちが試合をしている。
ピッチャーが投げる。
バッターが打つ。
白いボールが夕日の中を飛ぶ。
観客が一斉に立ち上がる。
主人公は笑う。
「最初は、あんな木の実を丸めただけのボールだったんだよな」
獣人も笑う。
「バットも酷かった」
「お前が作ったんだろ」
「お前が要求した形が悪い」
そんな会話をする。
主人公は隣を見る。
最初にこの世界へ来たとき、怖くて仕方なかった獅子頭の男。
今では、その大きな身体が隣にあることに安心する。
獣人も主人公を見る。
二人の肩が触れる。
どちらも離れない。
25 「生きる活力」
試合終了。
勝ったチームが喜び、負けたチームが悔しがる。
それでも選手たちは互いに握手をする。
子供たちは明日の試合を楽しみにしている。
主人公はそれを見ながら、石像が言った言葉を思い出す。
「生きる活力を与えてください」
そんな大層なことを頼まれた。
自分には無理だと思った。
世界を救う魔法など持っていない。
しかし、必要だったのは魔法ではなかった。
明日が楽しみになること。
誰かと一緒に笑えること。
負けて悔しがること。
次は勝ちたいと思えること。
かつて「夢」という言葉すら知らなかった人々が、自分の未来を語るようになった。
ある日、幼い子供が主人公に尋ねる。
「どうして野球を作ったの?」
主人公は少し考える。
「俺が好きだったからだよ」
「それだけ?」
「ああ」
隣にいた獣人が口を挟む。
「それだけで十分だったんだ」
主人公は獣人を見る。
二人は並んで球場を見る。
グラウンドでは若者たちが走っている。
打球が空高く飛ぶ。
歓声が響く。
その光景を見ながら、二人は笑う。
異世界へ召喚されたあの日。
帰ることだけを考えていた二人は、結局帰らなかった。
世界を救った英雄にもならなかった。
ただ、自分たちが知っている「楽しい」を、この世界に一つ持ち込んだ。
それが、世界を少しだけ変えた。
そして二人は今日も、球場の片隅から若者たちを見守っている。