第四章 最初の一球
7 道具を作る
まず問題になるのは道具。
野球用のボールもバットもない。
主人公はスポーツ用品店勤務の経験を活かし、代用品を考える。
ボールは木の実を芯にして布を巻く。緩まないように上からぐるぐるに麻糸で縛る。
何度か試作して、転がりやすく、握れる程度の大きさにする。
バットは木を削る。
獣人は設計士としての知識を使い、形状や重心を考える。
最初に作ったものは重すぎる。
次は細すぎる。材木も加工しやすいものは柔らかく衝撃で簡単に折れてしまう。硬くて玉に負けて折れないものを探した。
何本も試して、ようやく「振れるもの」が完成する。スイングすると懐かしい風切り音がした。
この作業を通して、二人の関係が少しずつ変化する。
主人公は獣人の手先が器用なことに驚く。
獣人も主人公の知識量や見たこともないものを伝える熱意に感心する。
8 最初の試合
主人公は集落の若者たちを集め、野球を教え始めた。最初は誰もルールを理解できない。
なぜ玉を投げるのか。
なぜ打った後に走るのか。
なぜ三回失敗すると交代するのか。
何より、
「なぜわざわざ遠くへ走る?」
という疑問が出た。「野球だから」で済ませずに丁寧に相手が分かるまで、主人公は何度も説明する。
獣人もそのころには野球のルールを理解して、簡単な図を地面に描いて石ころを選手に見立てて説明する。
設計士らしく、きっちりとした図をさらさらと描くし、配置や守備範囲を考えるのが上手い。
それを見た主人公が、
「お前、こういうの描いたり作ったりするの上手いな」
と言うと、獣人はカラリとさわやかな、心底気持ち良い笑顔を浮かべた。
「なんでも器用にこなせるたちでね」
いたずらっぽく笑う相手の背中を小突いても、ウェイトが全然違う相手なのでよろめくこともなく笑っている獣人に、当初の恐ろしさを感じることは全くない。
やがてルールが理解され、いよいよ最初の試合を開催することになった。
白線の代わりに、鳴らした土地に木の棒でまっすぐな線を引いて、塁を示す部分には土を盛って木の板を埋め込んだ。
急ごしらえではあったが、即席の球場に集落のほぼ全員が集まった。
投げる。
打つ。
走る。
歓声。
最初は戸惑っていた住人たちが、いつの間にか夢中になっている。力いっぱい投げ込まれる一球に吸い寄せられる視線。
打球が転がっただけで子供たちが叫ぶ。
誰かが捕れば歓声が上がる。
初めて三振を取った少年は、意味もなく両手を上げる。
主人公はその光景を見て笑う。隣で獣人も牙を見せて笑っていた。
石像の言っていた「生きる活力」という言葉を、初めて実感する。